Knowledge into Action チェンジ・リーダーを育成

實地應用ノ素ヲ養フ 第4回

本学の建学の理念「實地應用ノ素ヲ養フ」は、「社会の要請をうけて、必要な知識と素養をもって行動する」の意。実地応用に優れたイギリス法の理解と法知識の普及をめざした英吉利法律学校の創設者らが掲げた理念は、今日、多様な学問研究と幅広い実践的な教育を通して「 行動する知性。- Knowledge into Action – 」を育むという本学のユニバーシティメッセージに受け継がれている。


 社会人の学び直しの場としてリカレント教育が注目されている。経済人学員の同窓会・南甲倶楽部の「中央大学125周年記念のビジネススクール創設指定寄付金」をもとに中央大学戦略経営研究科(ビジネススクール。以下、CBS)が設立されたのは平成20(2008)年。以来17年を経過し、これまでに約1100名のMBA取得者を輩出している。社会人としてビジネス経験があることを入学資格とするCBSの受講者の特徴やCBSの理念、そしてこれから目指すところを遠山教授に伺った。

国際認証でトップクラスの評価に

 日本の経済界をけん引するビジネスリーダーを養成することで、中央大学全体のブランド力向上に貢献させることも、CBS創設時に語られた設立目的の一つであった。既にCBSでMBAを取得した後に企業の経営陣に加わり、トップに就いた修了生も輩出しているが、その目的は達成されているだろうか。遠山教授はこう語る。

 「中央大学にビジネススクールがあるということが広く知られているとはまだまだ言えないかと思います。まずは中大にビジネススクールがあることを知っていただくことが重要だと私たちはとらえています。一昨年、ビジネス教育の国際認証機関である英国のAMBA(The
Association of MBAs)より国際認証を取得しました。これは国際的な第三者機関による認証評価を通じて、ビジネススクールの教育研究活動の質を担保するもので、全世界の約2%のビジネススクールのみが認証されています。中央大学としても初めての国際認証取得であり、CBSの評価を大きく高めています。こうしたことも含め社会でのCBSの認知が高まることは中央大学のブランド力向上に資すると考えます」

 社会人教育の必要性が高まる中で、CBSでは社会人としてのビジネス経験を入学資格要件とするなど、ビジネスの現場ですぐアクションに結びつけられる教育に力点を置いている。

 「変化が激しい時代の中で、10年、20年、あるいは30年前に大学で学んだことはもう通用しません。アップデートが必要です。そして学ぶだけでなくて、アクションという点も大事。CBSにはビジネスマンとして自分の現場を持っている人たちが来ていますから、すぐアクションに結びつけられ、学部とは異なる学びがあります。

 講義では、対話を通じて新しい視点や思考力、コミュニケーション能力を高めることを重視しています。学部卒業からストレートに来た学生とビジネス経験がある学生間で意見交換しても噛み合いません。3年以上のビジネス経験を入学資格とすることは、CBSの大きな特徴の一つだと思います」

 実際、CBSでは企業の部長や課長といった平均年齢40.12歳の経験豊かなビジネスパーソンが働きながら学んでいる。多様な視点を持つ学生同士でそれぞれの経験を持ち寄り、活発な議論を行えることがCBSの魅力であり、それは教職員、学生、修了生ともに評するところである。

 さらにコロナ禍以降もオンライン授業を継続、標準化することで、仕事を持つビジネスマンがより学びやすい環境整備も行っている。

 「現在は、平日オンラインで土日が対面の授業体制です。働きながらだと平日18時半に大学に来るのは難しい。一方、対面でないとできないこともあります。講師とのつながりや受講生同士の関係構築は圧倒的に対面ならではのもの。この両立を狙った体制は学生の支持を受け効果も出ています」

 ビジネスの現場に直結した学びの場であるCBSは、まさに中央大学の建学の精神「實地應用ノ素ヲ養フ」を実践しているとも言える。

 「『實地應用ノ素ヲ養フ』は、ユニバーシティメッセージ『行動する知性』という言葉に置き換えられています。英訳では “Knowledge
into Action”。私たちはこの言葉をとても大事にしています。これからの時代、一生学ぶということを続けないといけない。その学びも、単に知識を得るのではなくて、それをAction・実践に活かしていくことによって、本当に自分のものになっていく。その意味では、社会人のほうが学びに向いているのではないかとも考えます。

 例えばCBSで人気のコーチングの授業では、毎回、次週までに自分の職場で3名にコーチングしてくるという宿題が出ます。いざ職場で実際にコーチングしてみると、習った通りにいかなかったり、反省点があったり、あるいは意外といけるといったことがわかる。それを次週、教室に持って帰ってきて、自分でリフレクション(反省)をして、また次の週の学びにします。そうすることによって、学びも深くなります。まさにKnowledge
into Actionを実践していることになりますね」

自分が変わり企業・社会を変える

 さらに遠山教授は、CBSの理念について次のように語っている。

 「我々のミッションは、戦略経営を実践し、自分を変え、組織を変え、社会を変えるチェンジ・リーダーを育成するということです。ですから入試の面接においては、何を変えたいと考えているかを問います。組織を変えたい、会社を変えたいという強い思いがある人に入学してもらい、まず自分を変えるところから始まるということに気づいてもらいます。

 CBSには異なる業界から様々なバックグラウンドの人が来ています。年齢もバラバラ。その中で、教員から最新の知識を得るとともに、それぞれ違う視点を持つ学生間で意見交換し、お互いに学び合う。社会に出ると、みんなどこかで利害関係ができます。でもCBSの学生間では利害関係がありません。クラスの中では自由に話せますし、愚痴も言い合える。それはとても得がたい経験です。まず自分が変わり、自分が変わることで組織が変わり、それが最終的には社会を変えることにもつながります」

 CBSではチェンジ・リーダーが身につけなければいけない知識を
“7つの力”と定義している。その1として挙げている問題発見力と解決力にも、CBSの学びの基本が表れている。

 「『問題』を正しく定義できないと問題解決はできません。何かあった時に表面的な問題だけ解決しても解決にはつながらない。何が本質的な問題なのかということをまず発見する。その力を身につけることが大事なんです」

 学員会では現在、平成・令和卒の若手学員の自己研鑽支援策として、CBSの受講料補助などを行っている。また、奨学金制度を支援する南甲倶楽部支部においても学員や学員関連企業からの入学生を募っている。中央大学から各界にチェンジ・リーダーを輩出することができれば、それが大学のブランド力向上にもつながる。

「学員会の支援には大変感謝しております。また、それが学員の皆さんのCBSへの関心につながればと思っています。社会に出た後、本当に学びたくなった時に、母校・中央大学にはビジネススクールがあるということを思い出してもらいたいですね。CBSの学生に私はよく言うのですが、CBSを修了した人がいつか日経新聞のインタビューに応えて『私の転機は中央大学ビジネススクールで学んだことです』と言ってくれることが夢だと。修了生たちが活躍し、その夢も叶いつつあります」

CBSが涵養するチェンジ・リーダーの7つの力

1.現場が直面している問題の発見力と、それを解決する問題解決力
2.物事を構造的かつ俯瞰的にとらえるグローバルな構想力
3.人や組織や市場に対する深い理解と想像力
4.アイデアと行動を通して現場・組織・社会を変える巻き込み力
5.多様な経営資源を獲得する資源動員力
6.人・アイデア・世界をつなぐネットワーキング力
7.高い倫理性を備えた経営を実践できるコンプライアンス力

遠山 亮子 氏
中央大学戦略経営研究科(ビジネススクール) 教授

とおやま・りょうこ
一橋大学商学部から同大学院修士課程修了、ミシガン大学経営大学院博士課程にてPh.D取得。北陸先端科学技術大学院大学准教授を経て、平成20(2008)年に中央大学大学院戦略経営研究科開設と同時に教授として着任。日本の知識経営の生みの親として知られる野中郁次郎氏直系の経営学者

関連投稿

検索語を上に入力し、 Enter キーを押して検索します。キャンセルするには ESC を押してください。