2023年9月29日公開「まなみ100%」

白門人(はくもんびと)インタビュー online version 01

4号館サークル棟の青春 中大映研出身監督の作品

 各界で活躍する“白門人”インタビュー。今回は、2023年9月29日から各地で公開される映画「まなみ100%」の監督である、新鋭・川北ゆめき氏に登場していただきました。

<2023年4月25日に多摩キャンパスにて開催された『まなみ100%』映画試写会での直井卓俊氏(映画企画、配給を担う株式会社スポッテッドプロダクションズ代表取締役)とのトークショーの内容、文学部教授宇佐美毅氏のコメントを編集して作成しました>

多摩キャンパスを舞台にした物語

――映画『まなみ100%』は、川北さん自身の実体験をもとに映画化したもの。平凡さを嫌う自分勝手な主人公が、平凡に生きる同じ部活のまなみちゃんを思い続ける高校時代から10年間の青春が描かれています。その中の大学時代編は、まさにここ中央大学多摩キャンパスですね。劇中にも映画研究会の場面がありましたが。

多摩キャンパスでロケ

多摩キャンパスでロケ

川北 僕は2014年に中央大学に入学して、映画研究会に入り映画撮影を始めました。今回の映画は、僕が体験したことをすべて詰め込んでいる映画なので、なるべく写しているものに嘘をつきたくないという気持ちがありました。なので、映画研究会の部屋は絶対使いたくて、大学に撮影協力をしてもらいました。
僕は、大学のサークル棟のちょっと廃墟みたいな感じがすごく好きで、そこで4年間過ごしていたので、どうしてもあそこを撮りたかったんです。ただ、僕がいた頃よりだいぶきれいになっていたので、美術の人にお願いしてあえて古いものを入れて汚くする作業を行いましたね。古いポスターを貼ってもらったりとかしました。

映画で表現した“ラブソング”

――この映画は、どんな経緯で作られたものですか。

学内で行われた直井卓俊氏と川北監督とのトークショー

学内で行われた直井卓俊氏と川北監督とのトークショー

川北 映画にも出ているんですが、2018年に高校時代僕が所属していた器械体操部の先輩が舌癌で亡くなりました。自分の大切な人が思ったよりあっさりいなくなってしまうことを実感しました。当時の僕は大学の卒業を控えていた時期で、人が亡くなる、どこかへ行ってしまう、卒業する、人生の区切りとか旅立ちに関してすごく考える時期だったんです。その先輩からは生前に「好きな人には、好きって言えるうちに、好きって言っておきなよ」と言われていて、その言葉もあって、こういった題材のものを作りたいなと。そこが始まりです。
タイトルになっている「まなみちゃん」は高校時代の器械体操部の同級生で、僕、まなみちゃんのことがずっと好きなんです。僕の人生の中で、そんなに好きなまなみちゃんも、いつかあっさりどこかに行ってしまうんじゃないかという危機感を覚えて、それは嫌だと。ミュージシャンはラブソングを作りますよね。僕は、その代わりに映画を作ろうと思って、こういう映画になったんです。

――企画・配給会社の社長・直井卓俊氏は、4年前に川北さんが企画書というか、分厚い自伝みたいなものを持って相談を受けたとき、自意識の塊みたいな内容だから映画化するのは難しいと話したそうです。そこでベテラン脚本家で映画監督でもある、いまおかしんじ氏に、断られる前提で脚本をお願いしたところ、受けてくれて、しかもすごくいい脚本を書き上げてくれた。そう伺いました。

川北監督と
川北 はい。それで直井氏も引けなくなったかと(笑)。そこから僕は、お金を集めなければと、クラウドファンディングやいろいろと頑張りました。でも、ほんと恵まれました。まず脚本、そしてキャストにも恵まれました。主演には、女たらしでもどこか憎めない、独特の役どころを演じることが出来る青木柚さん、そして「まなみちゃん」イメージにぴったりの女優・中村守里さん。日本映画の次世代を担う二人が出演してくれました。

学生映画とは異なる体制と現場

――自伝がベースで、川北さんの非常に個人的な内面を詰め込んでいます。主役の青木さんに伝えることはありましたか。

4号館の映画研究会サークル室でも撮影

4号館の映画研究会サークル室でも撮影

川北 そうですね、主演の青木くんに関しては、現場での僕の立ち居振る舞いとか参考にしてもらっていたようですし、一緒にご飯にも行っているので、そこでも僕のことをよく見ていたし。何より直井さんに提出して引かれた膨大な設定資料を読んで貰いました。だから現場で僕とは違うなと思うところはなくて。ただ、高校が器械体操部という設定ですから、バク転ができるところまでは頑張って練習してもらいました。
そのほかのキャストも、女性のキャストに関しては、もともと自分の好きな子がモデルなので、こういうことをされて僕は好きになったなあとか思い出しながら、そういう感じを伝えたりしました。

――たくさん話してネタバレになってしまっても困りますが、この映画で大変だったことはなんですか。

川北 全体的に大変でしたが、僕はもともと大学の映画研究会で学生映画を撮っていたので、基本的に今までの映画はスタッフもサークルの人、役者さんもそう。だからヘアメイクも役者さん本人がやるというスタンスでやっていたんです。けれど今回は、ちゃんとしたヘアメイクも付きました。なので僕はヘアメイクにどのくらい時間がかかるとか、そのあたりもわからなかったし、打ち合わせの回数も圧倒的に多かったし。役者さんも、以前でしたらグループラインを作って、そこで「明日お願いします」とやっていたんですが、今回はもちろんそうはいきませんから。そういう調整に慣れていなかったので大変でしたね。

――音楽は。

川北 音楽は前作でも劇中歌をお願いした大槻美奈さん。まだプロットの段階から参加いただいて、すごく助けられましたね。非常に印象的な主題歌とか、すべて書き下ろしです。音楽も楽しんでいただけると思っています。

新海誠氏に続け。学員会の支援も期待

――大学時代、川北さんが授業を受けていた宇佐美毅教授にも一言いただきたいと思います。宇佐美教授は日本の近現代文学をご専門に、現代文化としてもテレビドラマ研究にも取り組んでいらっしゃいます。

文学部・宇佐美毅教授

文学部・宇佐美毅教授

宇佐美 私は仕事柄、膨大な量の本を読んだり、ドラマや映画を観たりしています。そういう感覚からいうと、この映画には少し違和感があります。通常の映画のストーリーだと、起承転結があって、最後はきれいにどこかに着地する。人物像が作り上げられている。でも、この映画は人物像も作りものめいてないし、ストーリーもきれいに終わるように作られてない。ある人物、ある時間を切り取ったという形の作り方です。なので、今までの映画やフィクション、小説の感覚を持っている人たちからするとしっくりこない感覚が残るのではないかと思いました。
でも、そのきれいにまとまっていないところが大切なんですね。一般的には主人公を共感される人物か、強く嫌われる人物か、どちらかにする場合が多いと思いますが、この映画では極端な人物にしない。それは、川北監督の自伝的な人物像というところもあるし、そういう作りものめいた人物像にしないところが、彼の映画観なのかというのが私の一番感じるところです。「映画とはこういうもの」という既存の基準におさまらない新しさがあるのではないかと思います。

――川北さん、いかがですか。

川北 正直な気持ちを詰め込んだ映画なので、それを他の人がどういうふうに受け止めるかなというのも、すごく気にはなるところです。
それでも、「この映画、いいものにしよう」と、思いをひとつにしたキャストや関係者といったチームがあったからこそ、ここまできたし、仕上がりも予想以上に良かったと思います。この映画でどこまで行けるかわかりませんが、少しでも多くの人に見ていただきたいと思っています。

宇佐美 中央大学文学部国文学専攻の卒業生で映画監督というと、新海誠さんが思い浮かびますが、何年かすると国文学専攻の卒業生で有名なのは新海誠さんと川北ゆめきさんの二人だということになっているかもしれませんね。

――最後になりますが、学員会では、在学生や卒業したスポーツ選手の応援、支援だけでなく、文化的な方面で頑張っている卒業生も応援、支援にも力を入れていきたいと考えていますが、川北さんから学員会への要望はありますか。どんなサポートがあれば、とか。

2023年9月29日公開「まなみ100%」

2023年9月29日公開「まなみ100%」

川北 もちろん、映画制作にも宣伝にも、多額のお金が必要ですから、本音を言えばお金の支援が嬉しいです。ただ、今回のように映画が完成した状態で、しかも上映前でしたら、少しでも映画の宣伝活動につながる活動をしたいと思っています。例えば学員の方の集まりなどに呼んでいただければ、そこで映画の紹介ができます。試写会を行うこともできます。そういった場で、学員の方々と交流させていただき、応援してくれる人を一人でも増やしたい。もし、個人的に寄付?をいただくことができれば、映画上映の1ヶ月前くらいまででしたら、映画のスタートに協賛としてお名前や会社名を入れることもできます。映画を見ていただく、後押ししていただけるなら、できるだけ直接対面で話をしたい。そのために学員会に機会を作っていただければ嬉しいです。

【作品情報】

twitter:https://twitter.com/100manami100
公式HP:https://www.manami100-movie.com/

白門人
川北 ゆめき 氏

(平30文)
川北 ゆめき 氏
映画監督/映像作家

かわきた・ゆめき
1994年生まれ、神奈川県出身。中央大学文学部国文学専攻卒業。大学入学と同時にサークルで映像制作を始める。中編映画『変わらないで。百日草』が TAMA NEW WAVEやカナザワ映画祭で入選を果たす。2018年には監督として長編映画『満月の夜には思い出して』を、2020年には城定秀夫監督『アルプススタンドのはしの方』でメイキング監督を務める。

関連投稿

検索語を上に入力し、 Enter キーを押して検索します。キャンセルするには ESC を押してください。