スポーツ支援を通じて
ビジネスを学ぶ機会をつくる

實地應用ノ素ヲ養フ 第2回

大学スポーツの資金調達、観客動員やファン層拡大を目的とした支援団体を、一般社団法人として設立する動きがいくつかの大学で始まっている。中でも中央大学のバスケットボール部、サッカー部の取り組みは、大学スポーツの新しい形を追求するものとして注目され、メディア等にも取り上げられている。取り組みを主導する渡辺岳夫教授を取材した。

スポンサー企業の支援の受け皿

 中大バスケットボール部の部長でもある渡辺教授は、法人化の経緯について次のように語っている。
 「2021年のインカレで中大はベスト4に残れなかった。優勝した東海大に負けたのですが、これが実にいい試合でした。中大チームは練習場のゴールが壊れていて、板張りではなく足腰に負担がかかるコンクリートの体育館で、公式とは高さが異なるゴールを使って練習していました。劣悪な練習環境でもそこまで頑 張った。それなら我々大人も、彼らをしっかり応援する仕組みをつくろうと考えました」
 大学サークルはもちろん、OB 会や運動部後援会などは任意団体であり、法人格を持たない。そのため納税主体とはならないが、その所得収入規模が大きくなった場合、そのままで良いのかという議論がある。また企業がスポンサーとして協力金を払う場合、任意団体が相手の場合は広告宣伝費としてではなく寄付金等の扱いとなるため、明確な経費化を求める経営判断にそぐわないことも生じている。こうした問題をクリアすることが、大学運動部を支援する組織に法人格を持たせる第一の理由となる。すでに京都大学アメリカンフットボール部などが先行し、グッズを制作販売し利益を部活動に活用している。販売規模はまだ小さいものの、販売活動そのものをファンや支援者の拡大、そして観客増につなげている。
 公式のバスケットボールのゴールは800 万円。学友会からの部費だけではとても賄えない。
 「さらに、中大バスケットボール部は夕方練習なので寮の食事に間に合わない。自炊をするお米は、長年、農家をしているOB が贈ってくれていた。その方が高齢になり、米を買わねばならなくなりました。そんな頃に、OB会がスポンサー企業を見つけてきた。では、お金をどういただけばいいのか。税金はどうするのか。そんな話からOB会の理解も得て、法人化の動きが―気に進みました」
 バスケットボール部の動きに呼応するように、サッカー部も同じ時期に動き出す。サッカー部には「事業部」という学生主体の組織があり、J リーグクラブのフロ ントのような仕事をするサッカーをやらない部員がいる。企業から協賛金を得るなど、スポンサー営業や観客増のイベントを企画したりしているが、企業に中大サッカー部の理念がより伝わるようにし、活動を明確化するにはどうすべきか、渡辺教授に助力を求めた。やはりこれも、法人化の選択がベストと判断された。  こうした経緯により令和4(2022)年、一般社団法人CHUO BASKETBALL CLUB(CBC)と一般社団法人CHUO SOCCER GROUP(CSG)が立ち上がったのである。

トークンによる新しい支援の形

 今般、バスケットボール部とサッカー部それぞれを支援する一般社団法人は、資金の調達やファンコミュニティ形成に活用するためにトークンを発行すること となった。一過性ではなく継続的な関係性を築く手段としてトークンを利用し、より良い練習環境の構築や支援者・ファン層の拡大を図っていくことが狙いだ。
 トークンとはブロックチェーン上で発行されたデジタルデータで、金融商品ではないが、株やゴルフ会員権などに似て発行後に価値が高まることも想定されて いる。一過性の寄付とは異なり、トークンを保有していることで部の運営を継続的に支援することができ、保有量により部の意思決定にも参画できる。また、保 有者のニーズに応じてその価格が上下するので、今後、トークン保有者が増えると、トークン価値が高まる可能性もある。支援者にとってトークンの保有は、初期から応援している証や継続的に応援するモチベーションにつながるという、新しい応援の形だ。
 今回のトークン発行について渡辺教授は「資金調達という意味もあるが、めざしたいのは、購入者=支持者が、試合観戦はもちろん、部のいろいろな意思決定にコミットしてもらい、一緒にバスケットボール部、サッカー部の価値を高めていこうと考えてくれること。トークンとは、部をつなぐチェーンというか、絆といったもの」と語る。

大学から日本のスポーツを変える

 法人化の目的である資金集めとファン層の拡大は、単に一クラブの強化という点だけでなく、今後の大学スポーツ全般の発展、ひいては日本のスポーツ全体にとって必要だと渡辺教授は力説する。
 「日本のスポーツはまだ文化と呼ばれるところまできていない。文化として高めるには、子供たちがスポーツのすばらしさに接する機会をもっとつくるべきで す。スポーツを人気の面で見ると、高校で盛り上がって大学でしぼんで、プロでまた少し盛り上がる、というものが多い。大学スポーツは何か閉ざされた世界で やっているような感じ。でも実際に観戦すれば、トップレベルのアスリートの技術を見ることができる。高度なプレーを見る機会が子供たちに増えれば、そこに 憧れてスポーツ人口も増える。技術を磨くにはより良い環境を提供しなければならない。そして、卒業後にプロになろうがなるまいが、社会で活躍できる素養を大学で同時に身につける。大学スポーツのあり方次第で、日本のスポーツは大きく変わると思う」
 こうした考え方も踏まえた学生への実践指導を、渡辺教授は商学部のゼミにおいても行っている。例えば、アリーナ立川立飛での中大バスケットボール部のホームの試合を満杯にする企画を考えさせる。
 「学生たちの企画は、最初は『中大卒の有名芸能人を呼んでこよう』程度。費用はどうする。どうやって進める、といった議論の中でだんだんに練られてきます」
 さらに、読売ジャイアンツ球場をホームとする読売ジャイアンツ2軍から依頼された地域貢献企画の立案という課題では、「地域の伝統芸能である府中の和太鼓を、プロ野球の試合や練習で折れたバットでつくったバチで叩くという企画を学生が考え、実際に動いている。商学部だからビジネスに関連づけるが、そういうところで『實地應用ノ素ヲ養フ』ことができる」
 今回のバスケットボール部、サッカー部のトークン発行も、保有者への特典や企画のアイディアを求めているという。大学スポーツの法人化は、単に資金集めにとどまらず社会的な大きな意味があり、その考え方は部活動に参加する以外の学生にとっても、「實地應用ノ素ヲ養フ」素材提供ともなっているようである。

中央大学バスケットボール部・サッカー部 トークン募集中‼

選手と一緒に楽しむさまざまな企画

 バスケットボール部とサッカー部のトークンは、8月8日から販売されている。募集期間は10月20日まで。トークン保有者向けにさまざまな企画も計画されており、初回募集特典としては「招待コード」が用意され、アカウントをつくるだけでトークンがプレゼントされる。詳しくは学員時報オンラインまたは各「初期販売ページ」で。

●バスケットボール部
《初期販売ページURL》 https://financie.jp/users/cbc/cards
バスケットボール部招待コード:AXM3CF

●サッカー部
《初期販売ページURL》 https://financie.jp/users/csg/cards
サッカー部招待コード:Q2AGZR

渡辺 岳夫 氏
中央大学商学部 教授

わたなべ・たけお
平成2(1990)年、中央大学商学部商業・貿易学科卒。平成9(1997)年、中央大学大学院商学研究科博士後期課程を単位取得退学し、岡山大学経済学部専任講師に就任。平成11(1999)年に同大助教授。平成12(2000)年に中央大学商学部助教授(平成19年、准教授)。平成29(2017)年から令和3(2021)年まで商学部長を務める。主たる研究テーマ:管理会計システムと組織における人間心理の関係、スポーツスポンサーシップの効果。

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