アントレプレナーシップ育成にも国際化対応の学びが必要

實地應用ノ素ヲ養フ 第5回

本学の建学の理念「實地應用ノ素ヲ養フ」は、「社会の要請をうけて、必要な知識と素養をもって行動する」の意。実地応用に優れたイギリス法の理解と法知識の普及をめざした英吉利法律学校の創設者らが掲げた理念は、今日、多様な学問研究と幅広い実践的な教育を通して「行動する知性。−Knowledge into Action−」を育むという本学のユニバーシティメッセージに受け継がれている。

 大学に対して「国際化への対応」が求められて久しい。イギリスで学んだ若き学究者18名が設立した我が中央大学の現状はどうか、そしてどうあるべきか。学内でもさまざまに論議されている国際化の取り組みと、もう一つ現在の大学に求められているアントレプレナーシップを持つ学生の育成について、民間から大学教員に転じた国松麻季教授の取り組みと考えを伺った。

国際ルールの中でプレゼンスを発揮できない

 今年度から中央大学国際センター所長となった国松麻季教授は、三菱UFJリサーチ&コンサルティング在職中に中央大学ビジネススクールの立ち上げ時のメンバーとして特任准教授として教壇に立ち、令和元(2019)年の国際経営学部の開設と同時に着任した。
 国松教授のキャリアは日本を代表する経済団体である経団連から始まった。経団連の事務局で日本国内の企業からの意見を集約し、ロビー団体として政府に提言する活動を通じて、日本企業の海外でのプレゼンスの低さに問題意識を抱くようになったという。「経団連会員の各社は素晴しい企業ばかりでしたが、海外ではルール形成に関与できないことから、十分にプレゼンスを発揮できていない現状があり、残念に感じることも多々ありました。その経験から、日本企業が海外でのびのびと活躍し、尊敬されて欲しいというテーマが形成されました」と振り返り、その後GATT/WTOや自由貿易協定・経済連携協定などの国際経済法、特にサービス貿易などの新しい分野に取り組むようになったという。加えて、グローバルな視点からの消費者保護や経済法・競争政策においても、法的拘束力のないソフトローが果たす役割にも注目している。
 「経団連から外務省に出向し、ジュネーブで経済ルールに関わる交渉の現場を経験しました。他国の政府交渉団の背後には経済団体が入り、ロビイングを行っているのに対し、日本は政府とビジネスの連携が未成熟であることなどに問題意識を感じました。そのため、この分野の研究を継続する決意を固めました」と当時を語った。その後、コンサルティング会社に転じ、ビジネススクールでの教員を経て現在に至っている。

社会課題に対応する知識・スキルを身につけさせる

 国際経済法の分析だけでなく、その形成段階でどのくらい企業の意識が反映されているか、新しいルールが日本企業に有利に働くかといった視点での研究を続けるとともに、国際経営学部では、ビジネスの実地経験を学生に伝えることに努めている。
 国松教授が担当する講義科目は貿易投資に必要なルールと実務を提供する国際取引法、ビジネスの立場から国際標準などのルール形成に参画する方法について学ぶルール形成戦略など。ルール形成戦略では、前職である三菱UFJリサーチ&コンサルティングとタイアップして行い、国内外の経済を含めた広範な視点での教育を行っている。2年生から学べるグローバル経営法では、入門編として、広く浅くグローバルビジネスに必要な法律知識を提供。「グローバル時代の競争法」では独占禁止法や消費者保護法の運用やルール形成に焦点を当てた講義を行っている。これらは学生がルール形成の過程に関わる主体であることを示し、ルールを作るための知識やスキルを教える科目でもある。
 また、経済社会政策の研究では毎回異なる研究員を招き、環境問題、社会福祉問題、雇用問題、政策の最前線について議論する講義も行っている。今年度で4年目となる三菱UFJ リサーチ&コンサルティングの寄付講座「グローバル経営と経済社会政策研究」では、同社において調査研究やコンサルティングの前線で活躍する18 名のプロフェッショナルが、経済社会政策の異なる側面を輪講形式で順次取り上げ、履修生との対話を多く取り入れながら現状と課題について掘り下げる。これにより、学生にリアルタイムで社会の課題に対応する知識とスキルを身につけさせている。
 「コンサル会社在職時代の同僚やそのネットワークでさまざまな企業のさまざまな職種の方々に来ていただき、あるいは訪ねて行って、学生にビジネスの現場を知ってもらうようにしています」という。学部新設と同時に決めた方針と方法だったが、当初はコロナ禍で思うように実践できずにいたが、現在は構想どおり機能し、講座の特色として学生たちにも人気だ。

国松麻季氏

国際経営学部では、一般社団法人スマートシティ・インスティテュート(SCI-Japan)の賛助会員としてさまざまな活動を行っている。その一環として国松教授のゼミ(専門演習Ⅱ)では、演習のテーマとして「スマートシティに関わる課題設定・解決策提案」を設定。調査研究プロジェクトの締めくくりとしてSCI主催のウェビナーシリーズ「Z世代が考えるスマートシティ~未来のまちづくりへの提案」で研究成果を発表した(7月16日)。

国際化は待ったなし全学で課題克服を

 国松教授はこうした研究と教育に加え、学事として今年度から国際センターの所長にも就任している。国際センターが担うのはグローバルな視点を持って行動できる学生の育成であり、それは大学の中長期事業計画で掲げられているミッションであるとしている。
 こうした方針に沿って、担当する科目「インターンシップ」においては、理工学部・藤井真也特任教授が担当する科目「グローバルインターンシップ」とともに、10名(国際経営学部6名、理工学部4名)の学生をインドへ派遣している。これは、令和6(2024)年8月中旬から9月にかけて1か月間、インドのシリコンバレーと呼ばれているベンガルールに拠点を構えるスタートアップ企業や日系企業にて、インターンシップを実施するプログラムである。文部科学省が掲げるアントレプレナーシップ教育をリードするものだ。
 就任早々、国際センターは「グロー・アントレプレナーシップ」のイベントを開催したが(9面に詳細)、アントレプレナーと国際化は密接なつながりがあると語る。
 「アントレプレナーシップは国内外で応用可能でなければなりません。中央大学がグローバルアントレを冠しているのは、日本の閉じたエコシステムの中だけで起業を行うのではなく、国際的に通用する起業マインドを育成するためですから」。そして「学生には、日本だけでなく海外にも挑戦してほしい。そのためにも、海外からも多くの留学生を迎え入れ、キャンパス自体もグローバル化する必要があります」とも語っている。現状の中大は留学生数においても国際化関連の予算においても、競合大学に比べ多いとは言えない。グローバルな視点を持ち、問題解決能力を持
つ人材を育成し、国際化とアントレプレナーシップの教育の目的を達成するためにも、全学を挙げさらには学員の協力を得て進めなければならない。
 「大学の国際化は待ったなしの状況です。中央大学の国際化は国際経営学部だけでは成し得ません」と危機感を持つ国松教授は、海外の超一流大学への留学を目指すような優秀な学生に対する厚い支援、紛争地域からの若者に対しての学びの機会を提供、さらには就職につながるようなインターンシップなど、母校の国際化のための理解と支援を学員会や卒業生たちに強く呼びかけている。

国松麻季氏

(昭60法)
国松 麻季 氏
中央大学国際経営学部 教授
(中央大学副学長・国際センター所長)

くにまつ・まき
上智大学法学部卒、ジョージタウン大学ローセンター修士修了。経済団体連合会事務局、在ジュネーブ日本政府代表部を経て、三菱UFJリサーチ&コンサルティングに勤務。在職中に中央大学ビジネススクールの立ち上げ時のメンバーとして特任准教授として教壇に立ち、令和元(2019)年の国際経営学部の開設と同時に着任。専門は国際経済法や対外経済政策。令和6(2024)年から現職。

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