これからの農林水産業の担い手を新しい考え方で育てていこう

鼎談 衆議院議員 農林水産大臣 坂本哲志氏 × 学員会 久野会長・岩田副会長

「食料・農業・農村基本法」の改正をけん引した衆議院議員 農林水産大臣 坂本哲志氏、水産や精糖など長年食料ビジネスに取り組んできた学員会 久野修慈会長、大臣と同郷・熊本で旧知の岩田英志副会長が今回の改正や食料安保の重要性、農林水産業の未来について意見交換をおこなった。
(2024年6月24日取材。肩書は取材時)

農業の重要性を認識し、時代に即した形をつくる

岩田 同郷・同窓で農水大臣を務めておられる坂本先輩に、製糖会社のトップで農水問題に知見をお持ちの久野会長と一緒に、食料の安全保障の強化、自給率の向上、価格変動についてお話を伺いたいと思います。まず、今回の「食料・農業・農村基本法」の改正について教えてください。

坂本 「食料・農業・農村基本法」は平成11(1999)年に制定されました。以来、農政の憲法として機能してきましたが、25年を経て、四半世紀ぶりに改正することになりました。なぜ改正することになったかというと、予想を上回る気候変動による異常気象が一つ。もう一つにはロシアのウクライナ侵攻により、小麦とトウモロコシの大生産地であるウクライナから輸出ができなくなったこと。さらには、昭和時代に就農した人たちがこれから皆リタイアしていくという問題もあります。これらの課題を踏まえ、食料安全保障を第一のテーマに掲げています。それと農家の所得を引き上げるためには、価格転嫁が必要であること。消費者の皆さんにコストがどれだけかかっているかということをご理解いただき、消費者と生産者の距離をどれだけ縮めていけるか、こういったものを今度の計画の中に盛り込んでいきます。今回の改正はこれからの日本の新しい農業をスタートさせるものとなっています。

久野 世界情勢が大幅に変わってきているので、食料の安全確保という観点では、今回の基本法改正も国民全体がもっと重く受け止めなければなりません。環境問題も含めて、極めて重要なのですが、広く周知されていないですね。

中央大学学員会 久野修慈会長(昭33法)

坂本 糖価調整制度に関する国と業界との調整作業について業界を代表して久野先輩にお願いし大変お世話になっています。糖価調整制度により、沖縄や奄美大島などの離島でサトウキビを作る農家の方々に補助金が回るわけです。サトウキビを作り続ける農家がいることで、離島にも人が住み続けます。

久野 その点を理解している人は本当に少ないですね。収穫されるサトウキビはたとえ競争力がなくても、やはりそこで栽培していただき、そこに人が住むことで領土を守らねばならない。離島のサトウキビ栽培が、日本の安全保障の一つにもなっているわけです。

岩田 以前、波照間島に行ったときに精糖のプラントがあり、整備が素晴らしかったのを覚えています。国のインフラの補助があるわけですね。

中央大学学員会 岩田英志副会長(昭51文)

農林水産業の大切さを若い人に知ってもらおう

岩田 今後の農林水産業のあり方について、国はどのように考えているのでしょうか。

坂本 この前の国会の採決で「スマート農業技術活用促進法案」のみが与野党全会一致で可決しました。スマート農業は、これからは欠くことのできない手段です。現在120万戸とされる農家の数は2030年には30万戸になるとの予想もあります。少ない人数で労力も少なくてすむスマート農業は不可欠です。4人でやっていたことを1人でやらなければなりませんから、無人機での田植え、ドローンによる無人の消毒、無人の収穫機なども必要でしょう。ただ、それらは導入コストが高いので、それに対して国がどう支援していくかが課題です。補助だけではなく、リースという形で農協と組んで色々と展開していくとか、やり方は色々あると思います。

久野  国内に目を向けても、農業の今後は大変です。まさに農水大臣の責任はとても重いものがあると思いますよ。

坂本 「農」ばかりでなく、「林」と「水」、それぞれにいろいろな課題を抱えています。それらが持続していくためには、やはり所得水準の確保が大事です。所得をいかに引き上げていくか、所得が上がればやはり若い人たちが参入してきます。若い人たちが参入してくれば、地方創生にもなり、東京一極集中の是正にもつながっていきます。農業を行う企業が分業するという考え方もあるでしょう。

久野 農林水産業での人材の育成と確保はこれからますます重要ですね。大学教育においても必要でしょう。いずれ正式な発表があると思いますが、中央大学でも農業系の新学部設置を構想しているようです。

坂本 少子化で大学の再編統合も始まっていますが、その中では中大独自の学部学科、コースを作り魅力をつくることも大事だと思います。それが農業系であるとすれば、楽しみですね。

久野 学生自体が農業や漁業、林業をもっと理解しなくてはならないし、農林水産省の方々が学生にレクチャーしていただき、日本の農林水産業を変えるという人材が育ってくれればいいですね。

坂本 社会全体で農業経営の担い手を作り、そして法人が農業に参入し、リタイアした人も含めていろんな方々が参入してきて農村地域を形成していくような方向に行けば良いと思います。農業、農村を知らない子供が増えていますが、学生たちが魅力を感じて農業法人に就職しようとか、農業で起業しようとか、そうなっていければと。スマート農業も含め、新しい考え方が必要です。

岩田 都会にいる人にはローカルの農業の実態はなかなかわかりません。熊本を地盤にして農村の現状も知っている大臣への期待も大きいでしょう。

久野 若い人、学生が農林水産業についてしっかり学ぶことは、本当に重要。どうやってそれを伝えていくかが課題。その点も含め、坂本大臣には私も大いに期待しているところです。

岩田 学員でも農林水産の分野で、行政はもちろん、民間でも活躍している人がたくさんいますよね。

坂本 先般、アフリカのコートジボワールから、日本の水産分野での開発協力への感謝として、農水大臣の私が勲章をいただきました。すり身の加工技術の支援など、現地に大きく貢献している日本企業の一つが『すしざんまい』。社長の木村清君(昭54法)には何度か会っていますが、活躍している中大の人材は多いと思います。

久野 彼もいろいろやっている。まだまだ世界で活躍している学員がたくさんいるんじゃないですかね。

岩田 せっかくの機会ですから、大臣から母校・中央大学に対するご意見や期待することをお聞かせください。

坂本 大学のネットワークは大切ですし、中大の強みですね。中大の良さというのは、地方から多くの学生が来ていたところにあったのではないかと私は思います。地方から来た学生の交流で、キャンパスでいろいろな文化が衝突して新しいものが生み出された。時代は変わりましたが、国際化やダイバーシティ的な取り組みも含め、これからもそういう多様性のある大学であってほしいですね。

岩田 ありがとうございました。

鼎談 坂本農水大臣×久野学員会会長・岩田副会長02
農林水産大臣 坂本哲志氏(昭50法)

(昭50法)
坂本 哲志(さかもと・てつし) 氏
農林水産大臣

農林水産大臣(第69代)。衆議院議員(自由民主党)。昭和50(1975)年、中央大学法学部政治学科卒後、熊本日日新聞社入社。平成3(1991)年、熊本県議に当選し、4期務めた後、平成15(2003)年に衆議院議員に初当選。総務副大臣、少子化・地方創生担当大臣を経て、令和5(2023)年12月から現職。

中央大学学員会 久野修慈会長(昭33法)

(昭33法)
久野 修慈(ひさの・しゅうじ) 氏
中央大学学員会 会長

大洋漁業(現・マルハニチロ)代表取締役、大洋ホエールズ球団社長、精糖工業会会長、中央大学各役員などを歴任。現 塩水港精糖会長。

中央大学学員会 岩田英志副会長(昭51文)

(昭51文)
岩田 英志(いわた・えいし) 氏
中央大学学員会 副会長

岩田コーポレーション代表取締役。熊本県経営者協会理事、熊本経済同友会幹事など地元経済界の役員も務める。

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