学びと教養の力
中央大学クレセント・アカデミー聴講録

 中央大学オープンカレッジ「クレセント・アカデミー」は、学業を終え社会に出た後も学び直しや教養を高めたい人に向けて、実務・教養・文化など多彩な講座を開講している生涯学習機関(オンラインと対面の双方対応)である。専門家による講義を通じて、受講者に新たな知識に触れる機会を提供している。
 今回紹介するのは、テレビ等でも活躍中の菊地幸夫弁護士の「シニアライフと法知識」の秋期第2回の内容。認知症による事故の裁判例や地域で起こる生活上のトラブルなど、身近な事例をもとに法律の考え方を整理し解説。母校での学び直しの場として活用できる講座の一つである。

講座内容

日常生活と法律の接点

 「弁護士・菊地幸夫と考える『シニアライフと法知識』」では、日常生活で起こりやすい法律の問題を、具体的な例をもとに説明している。聴講生は40名。11月14日に行われた講義のテーマは「事故、事件…高齢者を取り巻くトラブル」。最初に取り上げられたのは、認知症の高齢者が線路に入って列車とぶつかった「JR東海の事故」。この裁判では、鉄道会社が家族に損害賠償を求め、家族に法律上の責任があるのかどうかが争われた。講座では、民法にある「責任能力がない人」「その人を見守る立場にある人」の規定を示し、一審・二審・最高裁で判断がどのように変わったのかを整理している。
 これ以外にも、認知症の人が夜間に家を出て事故に遭った例や、特別養護老人ホームで行方不明になった例など、現実に起きた事例を複数紹介。徘徊が起こった状況、家族や施設がどのように対応したか、事故との関係など、具体的な説明がなされた。
 また、認知症による行方不明者が年間約2万人にのぼり、その多くが無事に発見という統計に触れ、社会全体で起きている状況を提示。鉄道トラブルに関する統計としては60 代のケースが多いことや、土曜日に件数が増える傾向も提示された。高齢になると脳の前頭葉が小さくなり、感情を抑える力に影響が出る場合があるという医学的な説明も紹介された。
 さらに、公共施設や地域で発生する高齢者に関するトラブルも取り上げられた。一例として、現場で見られる問題行動例を紹介。自治体職員に毎日長時間の電話を続けるケースや、施設で大声で職員に抗議するケース。あるいは図書館の資料返却をめぐるやり取りや、近隣住民同士の外壁の色をめぐる争いなどである。これらは自治体に寄せられた実際の相談に基づくもので、どの部分が行政の対応範囲で、どこからが個人間の問題になるかの解説もあった。
 後半では、特殊詐欺の事例も扱われた。電話を使って金銭をだまし取る手口や、なぜ高齢者が標的になりやすいのかといった点について、実際の相談例をもとに説明。身近な高齢者の問題、地域で起きるトラブル、法律の条文や裁判例、行政の相談現場での具体的事例について体系的な講義が行われた。

講師からのメッセージ

学び続けることの意味

菊地 幸夫 講師

 社会人になってからの学びには、特別な面白さがあると私は思います。学生の頃の勉強は、いい成績を取るため、親に怒られないため、といった義務感が強く、「できるならやりたくない」と思っていたところもあります。しかし大人になってから改めて本を開くと、若い頃には気づかなかった学問の深みや面白さが見えてきます。私は算数が苦手で「大人になったら使わない」と思っていましたが、弁護士になって交通事故の速度計算や、東海村臨界事故の弁護では物理・科学など、理数系の知識が必要になる場面にいくつも出会いました。経験を積んだ上で学び直すことで、学問の本当の面白さに気づいたと思っています。
 また、教養というものは、人の人生を成熟させていく大切な要素だと考えています。教養は自分の言動の背景となり、人間力を形づくる土台になります。弁護士としてさまざまな人に接してきましたが、人間力の豊かさは必ずしも専門知識の多寡ではなく、どれだけ幅広く世界に触れてきたかという教養の深さに現れます。大人になってからこそ、学問とともに教養を学び続けることが、自分の将来の可能性を広げるのだと感じています。
 クレセント・アカデミーで講座を担当して10年以上になります。当初は、シニアの法律問題を扱うことに「自分にはまだ早い」という意識がありました。しかし今では68 歳になり、まさに自分自身が当事者として学ぶ年代になりました。受講される方々も年齢が近くなり、今では「皆さんと一緒に学んでいる」という感覚が強くなっています。講座ではどの方も熱心で、うなずきながらメモを取ってくださる姿を見ると、こちらも励まされます。
 私は決して要領がよい学生ではなく、人の何倍も時間をかけてやっと同じ地点に立つようなタイプでした。中央大学でも、最初は何が何やら分からず苦労しましたが、学生の熱意や先生方の導きに支えられ、学ぶことの意味を知ることができました。その後の人生を振り返っても、大学で学んだ経験が大きな基盤になっていると感じます。
 社会に出てからも、学び続けることは自分の力になります。大学で初めて学問に触れた頃の新鮮な気持ちを思い出しながら、これからも新しい学びと出会っていただければと思います。

きくち ゆきお
(クレセントアカデミー講師)
弁護士。1981(昭和56)年、中央大学法学部卒。テレビ番組のコメンテイターとして活躍する一方、地域の法律相談や福祉分野の実務にも携わる。司法研修所で刑事弁護教官を務めた経験をもち、現在も幅広い社会活動に関わっている。地元の小学校のバレーボールチームの監督も務める。

母校の生涯学習講座
中央大学クレセント・アカデミー

 母校の生涯学習講座『中央大学クレセント・アカデミー』は「創立百周年事業」の一環として、100周年を迎えた翌年の昭和61(1986)年12月に多摩キャンパスに開設され、40年になろうとする歴史を刻んでいる。
 同講座はオープンカレッジ構想のもと学外にも広く門戸を開き、在学生はもとより市民や地域住民等へ学びを提供する場として誰もが参加できる各種講座を開講している。講座の開設場は、多摩キャンパスのグリーンテラスにある専有教室のほか、体育館等の大学施設を利用。その他都心キャンパスやオンラインを利用した講座も開設されている。

 講座は歴史、文学、法律、経済、芸術などの総合講座(31講座)やスポーツ講座(22講座)、外国語講座(9講座)のほか、公開講座やイベントも開催される。生涯学習で再び、母校のキャンパスに通うのはいかがか。

クレセント・アカデミーの概要や講座一覧はこちら

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