学員インタビュー
学生時代の放送研究会での活動をきっかけにテレビの世界へ進み、現在はテレビ朝日ホールディングス会長、民放連会長として業界を牽引する早河洋氏。変化の時代に求められる放送の使命、母校への想いを伺った。
法曹界ではなく放送界へ
―― まず、学生時代についてお聞かせください。
早河 中央大学法学部に入ったのは、親戚に弁護士がいたこともあって司法試験を目指していたからです。入学後、駿河台校舎の4階の司法試験の研究室を見に行くと、六法全書と首っ引きで学んでいる先輩方がいました。365日座学というのは自分には無理だなと、すぐに断念しました。
たまたま中庭で新入生向けのサークル勧誘が行われていて、女子学生に勧誘され、放送研究会に入会しました(笑)。当時、放送研究会は登録が100人で、活動している部員が60人ぐらい。アナウンス部、劇団部、技術部、文芸部の4部に分かれていました。
アナウンス部は、アナウンサーを目指す人向けの訓練が中心で、大学行事やコンサートなどの司会をしていました。劇団部は、ラジオドラマの声優志望が中心です。技術部はミキサーなどの裏方。私が入った文芸部は、番組のプロデューサー役というか、ドラマやドキュメンタリーの台本を書き、制作、演出を担当するセクションでした。
印象に残っているのは「白門祭」ですね。部員たちは、音楽演奏の舞台設定や進行、司会などで活躍していました。学祭の締めくくりは中庭でのキャンプファイヤーで、最後はみんなで肩を組んで中大名物の『惜別の歌』を大合唱。まさに、中央大学生であることを実感する時間でした。
また、2年のときに大学放送連盟が主催するドラマコンクールがあり、先輩から「脚本を書いてみたら」と言われ応募しました。当時有名だった脚本家の審査委員長から「シナリオはいちばんよくできていた」と褒められ、そうしたことも後押しとなってテレビの世界に入りました。
振り返ると、法学部の学生としては落第級でしたが、法曹ではなく放送の方の放送研究会では、集団の中での人間関係やものづくり、先輩後輩のつきあい方など、いろいろなことを学ぶことができました。何より心を許せる友達ができたことは大きかったです。
放送業界の使命と課題
―― 今年、民放連の会長に就任されましたが、放送業界、とりわけテレビの現状と今後についてどのようにお考えですか。
早河 民放連というのは、地上波放送のラジオ社、テレビ社、ラジオ・テレビ兼営社、そして衛星放送の全207社で構成されています。
目下の最大の課題は、皆さんもご存じのような事案によって、テレビに対する広告主と視聴者からの信頼が低下したことです。その原因となった事案の再発防止のため、現在、人権の尊重、法令遵守、ガバナンスの確保といった3つの分野を定めて取り組んでいます。
放送業界の経営面の課題は、生命線である広告収入です。インターネットが急伸し、国内の広告費の約45パーセントがインターネット、我々テレビの地上波は約22パーセントと、その対比はネット2に対して我々が1です。地方では人口減少で経済がシュリンクしていますから、近年は赤字の放送局がかなり増えました。
そこで広告以外の収入確保が課題となっています。
私どものテレビ朝日では、一昨年、2024年には開局以来初めての視聴率三冠を達成し、業績や売上、利益もお陰様でハイレベルで推移しています。一方で、広告収入の減少傾向については対応策も講じています。たとえば、自前の動画配信プラットフォーム「TELASA(テラサ)」や、共同で運営している見逃し無料配信動画サービス「TVer(ティーバー)」、音楽イベント、ドラマや映画、アニメの海外展開などのビジネスに力を入れています。サイバーエージェントと共同で運営する「ABEMA」は40から50チャンネルを運営し、上昇基調になっています。また、今年3月27日には、湾岸エリアの有明に「東京ドリームパーク」という複合型エンターテインメント施設をオープンします。これらの事業収益で従来型広告の減少を補います。

SNSの世界で行き交っている情報には誤った情報もあります。我々は「オールドメディア」などと言われていますが、テレビは放送法によりさまざまな規制がされていて、それに基づいて報道しています。放送法には「公共の福祉」「健全な民主主義の発達に資する」という理念があり、NHKも民間放送もテレビ・ラジオは法律に基づいてその役割を担っています。たとえば、皆さんが何気なく見ている天気予報も、我々には台風情報などを報じる義務が課せられています。
情報の受け手は面白いから見る、つまらなければ見ないかもしれません。また、インターネットや動画配信の普及で若い人の中にはテレビを見ない人もいます。しかし、そうした人たちは真実に基づいた情報に接することができなくなってしまう可能性があります。SNSがますます普及した世界であってもテレビの役割は依然変わることはありませんし、テレビは今後も放送に課せられた役割を維持し、信頼に基づく報道を続けることが使命だと考えます。
テレビとSNSの区別については、広告主にも理解が広がっていると思います。アメリカの例では、一時すべての広告をインターネットにした日用消費財の大手メーカーが、再び地上波に戻しました。今後はそのように棲み分けられていくことでしょう。
勢いのある中大
―― 中央大学、同窓へのご意見やメッセージをお聞かせください。
早河 かつて、大学の評価として、「早稲田の政経、慶応の経済、中央の法律」と言われた時代がありました。司法試験で20年間、東大を抑えてトップだった時代もあり、一方でスポーツも、箱根駅伝の6連覇、野球、サッカー、バレーボール、水泳など全般的に強く、オリンピックでは中央大学生が多くのメダリストになりました。つまり文武両道だったのです。たくさんのOB・OGの、放送業界における活躍や経済人の存在を思うにつけ、現在はあの当時の勢いがいまひとつのような感じがしてなりません。
その原因に挙げられるのは、まず多摩移転ではなかったかと私は思います。私自身が山梨出身なのでそう思うのですが、地方出身の学生にとって八王子の多摩キャンパスは魅力がない。都会の中でのエンターテインメントの機会が、駿河台などに比べて圧倒的に少ない。これについては、現在、法学部移転など都心回帰が進んでいるようですね。もっと東京の大学という点をアピールしてみてはいかがでしょうか。
多摩キャンパスについても、アイデアいかんでは人気を得ることができるのではとも思っています。たとえば、一つの提案ですが、収益事業をやってみてはどうでしょう。春には桜祭り、夏には花火大会を開催する。学生だけでなくその家族、そして地元の皆さんが春と夏に加え、秋にも白門祭と、四季のうち3シーズン、キャンパスに訪れる。そうした地域に開かれたイベントがあれば、大学の存在感を高めることにつながると思います。
もう一つはスポーツです。箱根駅伝は、最近、藤原正和監督を中心に成績が上昇しています。これを徹底的に強化したらどうかと考えます。正月の2日間、箱根路を走る中央大学の選手の胸のCマークがテレビに映り続け、アナウンサーが「中央、中央」と叫ぶ。これはすごい宣伝効果です。有望な高校生をスカウトし、その受け入れにあたっては就職まで世話をする必要があります。会社の経営者など、有力なOB・OGがたくさんいる中大なら、そうした面での支援もできます。
私の母校は山梨県立日川高校ですが、私の時代は生徒数が1200人いました。近頃は700人前後、つまり半減近い数です。高校生がそんなに減っているということは、大学に行く数も減っているわけで、大学経営は今後非常に難しくなると思います。そこでは時代に即応した学部づくりが必要で、スポーツに加えて、メディアやインターネット、AIといった先端的なものを学ぶコースもますます必要でしょう。
大学経営陣もさまざまに熟慮されていることとは思いますが、卒業生の一人として私が願うのは、中央大学が箱根駅伝だけでなく、あらゆる分野で先頭を走る存在であってほしいということです。
ドラマ脚本『兄貴』──放送への扉を開いた一作
早河 テレビ局に入るきっかけになったのは、大学時代、コンクールに応募した『兄貴』というシナリオです。
私が大学に入学したのは1960年の安保闘争のあとで、学生たちには挫折感や疎外感のようなものがありました。そこに注目して、目標を失った学生を主人公にしたんです。
遊びほうけている学生が、ガールフレンドとドライブ中に小学生を轢いてしまう。子どもは重傷で、もう健康な体には戻れない。自分が轢いたと言えないまま、見舞い続けるうちに、小学生のほうが「兄貴」と呼ぶようになるんですね。やがて学生は自分を見つめ直し、司法試験に挑戦する決意をする。審査員からは「司法試験というところが中大らしい」と言われました。
関東大会では1位はとれませんでしたが、審査委員長から「シナリオは、『兄貴』がいちばんよくできていた」と高く評価され、京都での全国大会に出場しました。そのとき乗ったのが、開業したばかりの東海道新幹線。すごいスピードで景色が変わる車窓を見ながら、全国大会に行けるという大きな高揚感も相まって、忘れがたい感動のワンシーンでした。
テレビ朝日の新しい事業──「東京ドリームパーク」
早河 テレビ朝日が新しい事業として取り組む「東京ドリームパーク」は、最大収容5,306人の多目的ホール「SGCホール有明」、最大1546席の「EXシアター有明」、ゴッホの名画などをデジタル展示するイマージブアート施設「レーヴ・デ・リュミエール」(初夏オープン予定)、そして、まんが、アニメ、大長編のドラえもんたちに会える「100%ドラえもん&フレンズ」を備えています。ここで新しいエンターテインメントと賑わい、そしてイノベーションを創出していきます。


(昭42法)
早河 洋 氏
日本民間放送連盟 会長
テレビ朝日ホールディングス 代表取締役会長
はやかわ・ひろし
1967(昭和42)年 法学部卒。テレビ朝日ホールディングス代表取締役会長、民放連(一般社団法人日本民間放送連盟)会長。67年、日本教育テレビ(NET、現テレビ朝日)入社。2009年テレビ朝日代表取締役社長、14年テレビ朝日ホールディングス代表取締役会長兼CEO、22年代表取締役会長。山梨県出身。25年5月に民放連会長に就任。
