社会人になってからの学び
環境に応じた機会の提供を

学員会副会長鼎談 室副会長 × 大久保副会長 × 松田副会長

 社会人になった後に大学や大学院に入って学ぶことを選んだ副会長に、その目的や思い、中央大学のリカレント教育に望むことなどを語っていただいた。

多様な学び

動機は大卒資格、学び直し、新たな学び

―― まずは皆さんそれぞれのリカレントについてお話しください。

 私は高校を卒業して当時の電電公社(現・NTT)に入りましたが、大卒の人たちはあっという間に係長、課長になるのを目の当たりにして高卒の悲哀を感じました。公社には「幹部養成所」という教育機関があるのですが、そこに中央大学の先生方が何人か教えに来られていて、そんなこともあり24 歳のときに中大の夜間部に入学しました。28歳で法学部を卒業して10年ぐらい司法試験に取り組んでいたのですが、結局だめで諦めました。もちろん、その間も公社に勤めていました。
 その後上場企業に転じて役員になった頃、先輩が慶應大学の通信教育を受けていることを知りました。そこで私も慶大の通信教育課程の経済学部に59歳で入学し、62歳で卒業しました。法律と経済を学んだことは仕事に役立ちましたし、会社に貢献できたと思っていましたが、さらに自分を成長させたいと大学院に行くことにしました。行くならば中大でと思い、64歳のときに経済学研究科に入学し66歳で修了、引
き続き66歳で博士後期課程総合政策研究科に入学して、70歳で博士課程を修了しました。それが今のコンサルタントの仕事に役立っています。

室勝弘副会長

室勝弘副会長(昭45法)
(むろ・かつひろ)株式会社室コンサルティング総合研究所代表取締役。博士(総合政策)。元・リコージャパン株式会社取締役

大久保 私の場合は、大学時代のやり残しを再び勉強したという感じです。法学部に入ったけれど司法試験には関心がなく、国際的なことをやってみたいという気持ちがあったのですが、卒業後は地元の埼玉県庁に勤めました。50代になってもう一度学び直したいと思い、国際政治とか国際関係論をやろうと、勤めながら通学もしやすい拓殖大学の大学院に入りました。ただ、当時の仕事は災害時には危機管理の統括をしなければならないポジションだったのでとても片手間ではできない。それで59歳で役所の方を辞めました。研究テーマは修士のときは「朝鮮戦争の終結プロセス」、博士のときは「北朝鮮に対する経済制裁の政治的効果」でした。論文のテーマを決めて自分なりの論考をまとめ、指導教官からいろいろ指摘を受けて、そしてまた研究するという日々はとても楽しく充実していました。

松田 私は今、放送大学で心理学を学んでいます。単純に心理学は面白そうだということで入学したのですが、仕
事をしながらその必要を感じていたのかもしれません。
 私は大学を出て司法試験に受かり弁護士になるわけですが、この仕事をしていると通常の人と外れた考えを持つ人を弁護したりすることもあります。そういう経験から、全然違う判断基準、視点を学ぶということは重要だという思いがありましたから。

学ぶこと、学び直すことの意義

大久保 私の個人的な体験からでしか申し上げられませんが、リカレントは「2回目の学び」。1回目は受験をして大学に入学し、カリキュラムに沿った勉強体験。そして社会人になって学ぶことを選べる立場になって、今度は自分に
合ったところで勉強するといったことですね。

 私は電電公社の幹部養成所を卒業して3年後に、そこの教官になりました。2年間でしたが、毎日夜遅くまで勉強して講義に臨みました。基礎を教えるのは大変だと痛感し、教えることで学ぶこと、学び続けることの大切さを知りました。現在のコンサルタント会社で顧問先のさまざまな相談事に応えるには、やっぱり学び続けねばなりません。

大久保 私も県の研修センターで講師をやりました。行政組織では、実務経験がある人が憲法を教えたり、行政法を教えたり、事例研修をやったりと充実しています。教えるには学び直しも必要ですね。もっとも私の場合は、その上で、仕事とは別のやりたいことを学び直したいということだったわけですが。

松田 私の場合、単に面白そうだと始めたことが結果的に仕事に役に立っているわけですが、そもそも弁護士というのは、ほぼ間違いなく判断を間違えるものなのです。なぜなら、最初は一方からしか話を聞きませんので、そこで得られたものが基本的な事実となりますし、刑事事件などでは本人が嘘をつく可能性もありますから。心理学を学ぶことで、例えば確証バイアスというものを理解するようになりました。自分の考え方や仮説を肯定するためにそれに沿った情報ばかり集めてしまう傾向というもので、冤罪事件の取り調べなどで問題にされることもあります。間違いを認められない人が結構ミスをしている。だから「私は絶対間違っているという感覚が必要」を私のポリシーとしていますが、こうした自分の生き方、あるべき姿を決めていくためにも、いくつになっても学ぶということは大切ですね。

松田啓副会長

松田啓副会長(昭62法)
(まつだ・とおる)中央大学評議員。弁護士。松田啓法律事務所所長

社会人に魅力ある学びの場を

―― 中央大学のリカレント教育に望むことは。

大久保 リカレント教育はとても対象範囲が広いですよね。20代から80代、90代の人もいますし、さまざまな分野の方がいる。中大はどういう層のニーズをターゲットにしていこうとしているのか、その戦略はあるのでしょうか。入門編のニーズが高いと判断するならそこを狙えばいいし、もっと難易度の高いところに行こうとか。私としては、中大はクレセントアカデミーもあるのですから入門編はそちらに任せ、超一流の先生方がゼミ形式で教えてくれる講座があれば魅力的だと思います。それが通いやすい都内にあれば(笑)。ビジネススクールだけでなく、法律や国際政治などさまざまな学問研究分野で、修士号や博士号を取り学会ともつながりを持ったキャリアを積むことは、ビジネスマンにとって良い仕事をし、職位を上げていく上でも必要ですからね。

 通いやすさという点では時間の問題だけでなく、やはり経済的な問題が大きいでしょう。私の場合、6年間の大学院で多額の学費がかかりました。60代で会社の役員をやっていたから出せましたが、普通はなかなか難しいと思いますね。

大久保 私もまわりから、役人で退職金が入ったからできるんだよと言われました。経済的な面は大きいですね。通信教育は経済的にも時間的にも少しハードルが低いですが、やはり学ぶには対面で先生から直接指導を受けるということと学生同士で議論するということは大事ですしね。ただそれが難しい人もいますから、人それぞれの学び方に合う機会があればいいですね。

大久保伸一副会長

大久保伸一副会長(昭57法)
(おおくぼ・しんいち)中央大学商議員。元・埼玉県下水道公社理事長

松田 放送大学の授業料は1科目いくらという設定です。学生としてIDとパスワードをもらうと、専攻以外のネット授業も受けることができるのでいいですよ。私は学割でパソコンソフトも購入しています。学生証を出すのはちょっと恥ずかしいですが(笑)。

 大学や大学院に入り直すことだけがリカレントではないですし、中大もいろいろなリカレント教育の機会提供ができるのではと思います。最新の講演、著名な人を呼んできて講演会や講座を行うとか。実際、そういう形の社会人講座を定期的に開催している都内の大学もあります。大学としてはいわゆる有名・有力校ではありませんが、素晴らしい講師をしかも安く受講できるようにしていて、私も何度か受講していますがいつも満席です。私は今年83歳ですが、人生100年時代は健康管理と同時に学び続けることが大事です。中大もこうした社会の要請に応えてほしいですね。

―― 学員会では若い学員を対象にビジネススクールの単科コース受講料の半額を補助する「自己研鑽プロジェクト」も展開しています。大学も今後、リカレントに力を入れると思いますので、学員も自分に合った「学び直し」を見つけてほしいですね。

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