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母校・中央大学を想う 学員からの提言

中央大学が今後とも私学の雄として社会に存在感を示していくためにはどうあるべきか
本欄では、各界で活躍する学員からの提言を掲載していく。(連載)

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もはや「法科の中央」だけの時代ではない
優秀な教育者の輩出など新たな魅力づくりを

2014年(平成26年)9月25日
弁護士 神谷咸吉郎(昭28法)

画像 旧制上野中学の4年を終え中央大学の予科に入った私は、その後の学制改革で、昭和28年新制大学卒となった。裁判官をしていた父は、最初、自分の母校である明治大学に私を入れたかったようだ。戦前の明大は法曹界に多くの人材を輩出し、中大を凌駕していた。しかし戦後は低迷する。父は同窓生たちと母校の復権を働きかけるが、「いま(戦後)の明大はお金持ちの子が増えて、苦労して司法試験を通ろうとする学生は減った」と言われたという。
 一方、台頭したのが中大だった。中大が司法試験合格者を増やした大きな理由の一つが、学費が安かったということである。戦災に遭った明大、日大など他大学が、校舎再建などのために授業料を上げ続ける中で、焼けなかった中大は学費を低く抑えたままでいられた。「都立高校より安い授業料」と言われ、貧しいが勉強したいという全国の優秀な学生が多数集まった。その優秀な学生の中には、陸軍士官学校や海軍兵学校出身者も多数いた。当時の占領軍は、彼ら旧軍人エリートが再び日本の中枢を占めることを恐れ、東大への入学枠を制限した。また彼らは公務員への道も閉ざされたので、多くの人が弁護士や公認会計士をめざした。職を失った旧軍人にとって、学費が安い中大が第一志望となった。また、夜間部を中心に、東大の先生たちが教えに来ていた。学生、先生ともに一流が集まったと言って良いだろう。「幼年学校から陸士に行った」という、当時の私からすれば見上げるような秀才と一緒に司法試験の勉強をし、私が合格した年に、合格者数で東大を抜く。
 時代は下って、現在、明大は人気だそうだ。それは都心に残ったという理由も大きいのではないか。多摩に移転した中大の苦戦は、周知のとおりである。都会でさまざまな情報に触れ、他大学の学生や先生たちとの交流で、学問や教養を高めていくということができなくなる……という移転当初の懸念は、予想以上に大きなマイナス結果をもたらしている。
 また、司法制度改革で、年間3千人以上もの法曹資格者を作るという暴挙により、弁護士の社会的地位は相対的に低下した。「収入がなく弁護士会の会費も払えない」という弁護士が増えれば、社会正義の実現どころではない。若者にとって、弁護士はかつてのような魅力ある職業ではなくなった。このような現状を見れば、もはや「法科の中央」の時代ではないのである。
 では、これからの中大はどうすればいいのか。やはり優秀な学生を確保し、彼らが社会のさまざまな分野で活躍していく道筋を教えることができる、優秀な先生を揃えるということに尽きる。優秀な先生とは、専門分野を極めていることはもちろん、社会との関わり、つまり大学外でも通用する能力や実績を持つ人材のことだ。そうでなければ、これからの学生指導や大学運営はできないだろう。
 都心への移転は簡単ではないだろうが、やはり追求すべきではないか。また、都心に残った理工学部はもちろん、経・商・文・総政それぞれが独自の個性を発揮し、その集合として中大の名前を高めていくことが大切だ。すでに一部導入されているようだが、従来型の「学部」枠にとらわれず、横断的な学問ができる場を提供することも、これからの大学ではますます必要だろう。
 法曹界は別として、中大卒は群れない傾向がある。群れることの良し悪しは別として、社会で中大の存在感を示していくためには、同窓のつながりはもっと強固であっていいのではないか。
 例えば、中大出身者には多数の教師=学校教員がいるはずだ。しかし、その横のつながりはあまり聞かない。これからの時代、教育というものはますます大切になる。現在、教師という仕事が実に難しいものであることは承知しているが、だからこそ、優秀な教育者を多数輩出していくことは、今後の大学の大切な役割になるのではないか。
 時代は変わった。また、時代は変わり続ける。教学も理事会も、そして理事会に一定の影響力を持つ学員会も、こうした時代の流れに対応し、先を読んだ施策を進めていかなければならない。かつて多摩移転を決める際にも、いつのまにか私たちの反対意見は封じられ、予想される問題点の多くは、深く議論されずに移転が決定された。私はその観点でも、移転は失敗だったと思う。
 組織をより良くするためには、いろいろな意見があっていい。理事会にも学員会にもさまざまな意見を持つ人が集まるべきだ。しかし、自らの所属するところの利益代表者の集まりのようになってはならないし、また、他を排除し特定の集団だけになってもならない。
 余談だが、最近、世の中全体が「異論を排除」する傾向にあるように思う。先般も、集団的自衛権の問題で、砂川事件弁護団として記者会見し、久しぶりにテレビに引っ張り出されたが、時代が変わると言っても、憲法解釈をあんなふうに変えられては困る。
 母校中央大学においては、時代変化に対応した大学を作っていく理念と能力のある人たちが、しっかりと議論し、将来を見据えた施策をつくりあげてほしい。そして、学員からその任にあたる人は、中央大学出身であることを自他ともに誇れる教養人であってほしいと願う。

神谷咸吉郎(かみや・かんきちろう)氏

弁護士。元東京弁護士会副会長。元学員会副会長で現在顧問。玉成会支部支部長。

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