バレーボールはこう観ると面白い

『試合が100倍おもしろくなる! バレーボール観戦マニュアル』

福澤達哉・著
監修協力:大阪ブルテオン
A5判176ページ
1,980円

 元バレーボール日本代表・福澤達哉氏が手がけた『試合が100倍おもしろくなる! バレーボール観戦マニュアル』は、初心者から熱心なファンまで幅広い読者に向けて、バレーボール観戦の“見どころ”を丁寧に解説する一冊である。著者は五輪やアジア選手権など国際舞台で活躍し、現在は解説者としても知られるバレーボール界の第一人者。試合中に起きるプレーの意味や選手の心理を、5つの局面――サーブ、レシーブ、トス、アタック、ブロック――に分けて紹介することで、「なぜそのプレーが有効なのか」「どこに注目すれば戦術が見えてくるのか」がわかるようになる。
 「フェイクセットは1本目が肝心」「20点以降の5点はトス次第」といった実戦的な解説もあり、現地観戦やテレビ観戦を何倍にも楽しくしてくれる。バレー中継を見ていて「今の、すごいけど何がすごいのか分からない」と感じた経験がある人にこそおすすめだ。プレーの裏にある戦略、選手の駆け引きを知ることで、ただの“応援”が“理解”に変わる。観る側の視点を進化させ、バレーボールの奥深さを味わわせてくれる一冊である。

元日本代表が語る競技の魅力と日本スポーツの可能性

 北京オリンピック出場や海外リーグへの挑戦など、国際舞台で数々の実績を重ねてきた元バレーボール日本代表・福澤達哉氏。 現役引退後は、パナソニックで広報業務に従事する傍ら、解説者としての活動や『試合が100倍おもしろくなる! バレーボール観戦マニュアル』の出版を通じて、競技の魅力を広く発信している。中央大学時代から「バレーボール以外のフィールドも常に持ちながら目を向ける」姿勢を貫いてきた福澤氏に、バレーボールと日本のスポーツのこれからについて聞いた。

中大法学部に行きたかった

――中央大学在学中の思い出や、バレーボール部での経験がその後の競技人生に与えた影響を教えてください。

福澤 京都の洛南高校でバレーボールをやっていましたが、中央大学を選んだのはバレーボールの強豪校というよりも、法学部に魅力を感じたからです。私はスポーツ推薦ではなく、指定校推薦で入学しました。単純にバレーボールが強いところに行くだけでなく、バレーボール以外に何に興味があるのかに目を向け、当時「行列のできる法律相談所」や木村拓哉さんのドラマ「HERO」などが流行っていたこともあり、それを見て将来法曹を目指そうと考えました。バレーボールはもちろん一生懸命頑張ってきましたが、それ以外のフィールドを常に意識することは現役時代も今も変わらない大事なポイントです。
 法学部の友人は法曹を目指してダブルスクールに通うなどしていましたが、私は大学1年生で日本代表に選ばれ、日本を背負って戦うという意識が生まれたこともあり、自然とバレーボール中心の生活になりました。でも、体育会だけでなく法学部の他の友人との繋がりもでき、スポーツと学業の両面で視野が広がった4年間でした。
 当時の日本代表の植田辰哉監督には「オリンピックに出れば人生が変わる」という言葉をずっと言われ続けていました。北京オリンピックに大学4年生で出場し、現役を引退するまで、常にバレーボールのモチベーションの中心にオリンピックがあり、そのために今何をしないといけないかを考えていました。

――日本代表や海外リーグでのプレーを経て、今のバレーボールに対する視点はどのように変わりましたか?

福澤 今でこそ男子日本代表は世界と互角に戦える素晴らしいパフォーマンスを見せていますが、私たちの時代は世界の高さとパワー、圧倒的なフィジカルの差という壁が高く、なかなか勝てない時代でした。日本は過去に金メダルを獲得した歴史があるため、身長が低い分絶対にミスをしてはいけない、器用さで補わなければいけないという考え方が根強くありました。今振り返ると、そうした価値観に少しこだわりすぎていたかもしれません。私自身も日本のエースとしてこういうプレーをしなければいけないというプレッシャーを常に感じ、重圧を背負って戦っていました。悩み苦しみながらやったシーズンが多かったように思います。
 石川祐希選手の存在は日本バレーボール界にとって非常に大きな意味をもっています。私の後輩でもある石川選手は、中央大学在学中にイタリアへ留学したのをきっかけに、長年にわたり世界最高峰リーグのセリエAで活躍しています。日本人というナショナリティに関係なく、世界の舞台で通用することを証明した彼の姿は、国内の選手たちにも大きな勇気を与えました。海外で活躍するパイオニアの存在が、周りの選手たちのマインドも大きく変えたと感じています。
 私が日の丸を背負っていた頃は、戦う前から世界を上に見てしまっており、その固定観念が能力や可能性を狭めてしまっていたように思います。今の代表選手、例えば西田有志選手や髙橋藍選手などは、デビュー当時から世界に対してそれほど恐れを抱いていなかったように思います。

 私たちの時代にも海外リーグに挑戦したいという思いを持つ選手はいましたが、個人でエージェントを探す必要などがあり、挑戦へのハードルは高かった。そういう意味では、中央大学バレーボール部後援会を中心とした海外支援プロジェクト「THE FUTURES」は、イタリアのクラブ側とのニーズがマッチしたことで道筋ができ、その先駆けになったと思います。

――著書『試合が100倍おもしろくなる!』には、観戦者の目線に立った工夫が数多く見られます。執筆にあたって、特に伝えたかったことは何でしょうか?

福澤 解説では、単に得点が決まった・決まらなかったという結果だけでなく、その裏にある駆け引きやチーム内の連携を伝えたい、感じてもらいたいという思いをもって取り組んでいます。
 バレーボールは基本的に「人」、つまり選手への興味をきっかけにファンになっていただくことが多く、石川選手や高橋藍選手などのスター選手の登場により、バレーボールに対する注目度は年々高まっており、未だかつてない盛り上がりを見せています。また、漫画・アニメ『ハイキュー!!』の影響も大きく、そうしたきっかけでバレーボールに興味を持ってくださった方々に、競技としての面白さや奥深さを伝えることで、バレーボールをもっと好きになってもらえるのではないかと考えています。
 「観戦マニュアル」は、サーブ、ブロック、スパイク、レシーブ、トスという5つのプレーに分解し、それぞれの考え方をベーシックな情報とともにまとめています。事前に本を通じてバレーボールに関する知識や駆け引きを知ってから試合を観ることで、本で読んだあのシーンだという気づく瞬間がきっとあるはずです。こうした気づきや発見こそがスポーツの面白い要素の一つになると思っています。
 日本におけるスポーツ観戦のハードルは海外と比べると高く、気軽に観に行くという文化はまだ根付いていないように感じます。海外では競技のことを詳しく知らなくても、その場の空間や一体感を楽しむために足を運ぶ人も多く、近くで試合があるからみんなで行こうという気軽さがあります。そうした観戦スタイルを日本でも広げていくためには、バレーボールそのものの魅力だけでなく、エンターテインメント要素を取り入れることが非常に重要だと考えています。理想は、会場全体がエンターテインメント性に富んだ空間となり、バレーボールは豪華なおまけと感じられるような体験を提供すること。それが、持続的にファンを増やし、競技をより多くの人に楽しんでもらうための鍵になるのではないかと思っています。

――中央大学では多摩キャンパスにスポーツ情報学部を新設予定です。感想をお聞かせください。

福澤 スポーツビジネスやマネジメントなどを勉強する学部とのことですが、長年スポーツ界に身を置いてきた私も、非常に興味があります。機会があれば、ぜひ授業を受けてみたいですね。
 スポーツの良さは、結果が明確に表れるという分かりやすさに加え、人種や年齢、職業に関係なく、一つのテーマを共有できる唯一無二のコンテンツである点にあると思います。しかし、その魅力を持続的な価値として広く伝えていくためには、知識と観る人を惹きつける仕掛けが必要です。
 日本のスポーツ界には、長らく「スポーツ=教育」という考え方が根強くあり、ビジネスとスポーツを切り分けてきた背景があります。現在のプロスポーツも、学校教育の体育の延長線上にあるのが実情です。スポーツが本来持つ力を十分に発揮し、その魅力を持続的に発信していくためには、ビジネスやエンターテインメントの視点を取り入れることが不可欠だと感じています。
 これからの未来を担う若い世代の学生たちが、課題意識を持って学び、独自の発想で新たなアイデアを生み出していくことに大きな期待を寄せています。特に日本はサブカルチャーが発達しており、エンタメに対する感度が非常に高い。その感性をスポーツ界にも取り入れ、一つのパッケージとして発信していくことで、新たなスポーツの楽しみ方が生まれ、より多くの人々にスポーツの価値を届けるきっかけになるはずです。

――中央大学の卒業生へのメッセージをお願いします。

 中央大学は日本全体を動かしていく人材を多数輩出しています。また、駅伝やさまざまなスポーツの活躍を見ると「中央大学ってやるな」と思います。そういうマインドが多くの方々の中にもあると思います。それぞれが自分の分野で頑張ることが、結果的に大学に貢献し、結果、日本全体のためになるのだと思います。法曹の方なら日本の秩序を守ることになるでしょうし、私ならスポーツ界で、そういう貢献をしたいと考えています。

(平12法)
福澤 達哉 氏

ふくざわ・たつや
ふくざわ・たつや  昭和61(1986)年、京都府生まれ。平成21(2009)年中央大学法学部卒。アウトサイドヒッターとして2008年北京五輪出場、大学入学時から16年間日本代表として活躍。国内クラブやブラジル・フランスなど海外リーグでもプレー。令和3(2021)年7月に引退。現在はパナソニックで広報業務に携わりながら、解説者・大阪ブルテオンアンバサダーとしても活動中。

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