東都大学野球リーグの歴史的な名勝負や選手たちの奮闘を、臨場感あふれる「実況」形式で綴った力作『死闘!激突!東都大学野球』。現在NPBで監督を務める阿部慎之助(中央大学)、小久保裕紀(青山学院大学)、高津臣吾(亜細亜大学)、新井貴浩(駒澤大学)、西口文也(立正大学)といった名選手たちの大学時代のエピソードも豊富に紹介されている。昭和33(1958)年秋の三つ巴の優勝決定戦、青山学院大学が野球部の歴史を変えた一本のホームラン、中央大学の奇跡の逆転サヨナラスリーランなど、数々の名場面が詳細に取り上げられている。これらのドラマチックなエピソードを通じて、東都リーグの熾烈な競争と選手たちの成長の軌跡が生き生きと描かれており、大学野球ファンならずとも胸を熱くする一冊となっている。
著者の久保田龍雄氏は昭和58(1960)年、中央大学文学部卒業後、地方新聞の記者を経て独立。現在は野球ジャーナリストとしてアエラデジタル、デイリー新潮などに執筆中。
『死闘!激突!東都大学野球』 著者・久保田龍雄氏(昭58文)に聞く
神宮球場で味わった感動から始まった大学野球人生
中央大学卒業生でスポーツライターの久保田龍雄氏が、東都大学野球の魅力を余すところなく描いた『死闘!激突!東都大学野球』を刊行した。1979年の中央大学優勝との出会いから始まり、学生時代に『東都スポーツ』を創刊、そして今回の書籍執筆まで——。大学野球への深い愛情を語ってもらった。
「大学野球って、本当にいいな」
——東都大学野球との出会いはいつですか?
1979年6月の全日本大学野球選手権大会で中央大の優勝を神宮で目の当たりにしたのが、私にとって初めての大学野球体験です。早稲田大との決勝戦では、一塁側中大スタンドは外野付近まで多くの学生やOBたちで埋め尽くされていたため、一緒に入場した友人たちとはぐれてしまいました。探しても見つからないので、そのまま一人で観戦していたら、中大が得点するたびにスタンドが盛り上がり、誰も見知った顔がいないにもかかわらず、両隣の学生たちが手を伸ばしてきて、一緒に肩を組んで「力、力、中央、中央」の応援歌を合唱しました。入学して間もなく、校歌も応援歌もまだよくのみこめていなかったのに、何度もみんなで歌っているうちに覚えてしまいました。そのときに「大学野球って、本当にいいな」と実感しました。入学早々野球部の大学日本一に立ち会えたことも、その後の人生に大きな影響を与えました。もし、1979年に中大に入学していなかったら、浪人して入学が1年でも遅れていたら、大学野球にこれほどのめり込むこともなく、ライターにはなっていなかったかもしれません。
——長年関わっている『東都スポーツ』の発刊の経緯は?
野球部の大学日本一をきっかけに、大学野球に強い興味を持ったのですが、当時の東都大学野球はマスコミの扱いも小さく、週刊ベースボールの大学野球特集号も六大学関連記事がほとんど。東都は選手名簿も掲載されていなかったので、もっと情報を知りたいという強い思いを常に抱いていました。でも、当時のマスコミが東都を大きく取り上げる可能性は皆無に等しく、「それなら自分で東都大学野球専門誌をつくるしかない」と思い立ちました。そんな矢先に、ミニコミ誌「中大パンチ」やマスコミ関連の仕事を手広くされていた大学の先輩・杉森昌武さんの紹介で「平凡パンチ」という雑誌にリーグ創立50周年を迎えた東都大学野球の原稿を書きました。そのときにダメ元で「東都の専門誌を創刊できませんか」と提案したら、即座に「いいねえ」とゴーサインが出て、全面バックアップしていただくことになりました。あとで知ったのですが、野球ファンの杉森さんは当初「中大スポーツ」という”東スポの中大版”のようなスポーツ紙を出したかったのに、諸々の事情で実現しなかったそうです。私の提案が一度はあきらめた夢を実現するきっかけになるという、まるで奇跡のような偶然から「東都スポーツ」が世に出ることになりました。
極限まで凝縮された”死闘”
——今回の著書の構成にあたって、特にこだわった点はどこでしょうか?
東都大学野球の長い歴史の中には数えきれないほどの名勝負、名場面がありますが、報道量の少なさから一般にはあまり知られていません。また、東都出身のプロ野球監督、選手の大学時代、例えば、巨人・阿部慎之助監督の2部リーグ時代、広島・新井貴浩監督の駒大時代もほとんど知られていません。東都大学野球熱戦譜のような本もこれまで刊行されていませんし、長年私自身の書きたいテーマでもありました。執筆に際しては、一人でも多くの選手の名前を出身高校とともに文中に入れることによって、「あの選手も東都でプレーしていた」ということがわかるようにしました。また、東都は1部から4部まで22校が加盟しているので、2・3部入替戦、3・4部入替戦についても触れ、「プレミアムユニバーシティズ22」の愛称にふさわしい内容を心掛けています。
——中央大学の試合や人物で、印象に残っているのは?
2部リーグ時代の1986年秋の1、2部入替戦、東農大戦の3回戦で、1点ビハインドの9回裏に現監督の清水達也選手が起死回生の逆転サヨナラ3ランを放って、6季ぶりの1部復帰を決めた試合は、泣きそうになるほど感動しました。その夜、大学時代の同期・泉直樹現「東都スポーツ」編集長とウイスキー持参で祝勝会会場を”押しかけ訪問”した際に、宮井勝成監督からご丁寧にお礼を言われたことも思い出深いです。
——東都大学野球リーグの醍醐味は、どんなところにあると感じるか?
東都大学野球リーグは「プロよりも厳しい」と言われます。それは入替戦があるからだと思います。東都の各校はいずれも優勝を目指していますが、その前に勝ち点2を上げて、入替戦を回避することにも全力を尽くします。1部から2部に降格すると、たとえリーグ戦で完全優勝しても、入替戦で2勝しなければ、1部に戻れません。「残留したい」「昇格したい」と、お互い「勝ちたい」の気持ちが真っ向からぶつかり合う入替戦は、勝負の厳しさが極限までに凝縮された”死闘”であり、優勝決定戦以上に名勝負が多いように感じます。
——取材を通じて出会った選手たちの中で、特に印象的だった人物は?
大学の1年先輩にあたる尾上旭さんです。リストが強く、劣勢の試合をひと振りでひっくり返したり、日米大学野球でサヨナラ本塁打を放つなど、ここ一番で頼りになる起死回生型の強打者でした。「東都スポーツ」創刊直後、「後輩のためにも長く続けてほしい」と励ましていただいたことも忘れられません。
初心を忘れずに精進
——今後、中央大学の運動部や東都大学野球について、どのように関わっていきたいとお考えでしょうか?
野球部にはもう一度全日本大学野球選手権で優勝してほしいと願っています。箱根駅伝も取材を担当した1996年に大手町で優勝のゴールを目の当たりにしましたので、夢再びを期待しています。これからも担当記事などを通じて中大の運動部や東都大学野球を広くご紹介していけたらと思います。
——最後に、中央大学の卒業生・在学生へメッセージをお願いします。
私のようにあがり症で口下手な人間が、マスコミや出版の世界で、この歳まで仕事を続けられているのは、データ集めなど自分の能力を最大限に発揮できることを地道にコツコツ続けてきた結果だと思います。これからも初心を忘れずに精進していきますので、よろしくお願いいたします。

久保田氏らが創刊した『東都スポーツ』。左が創刊号。右は平成12(2000)年の阿部慎之助選手が表紙の号
東都大学野球の栄光と激闘を実況形式で描く
『死闘!激突!東都大学野球』
著者:久保田龍雄
出版社:ビジネス社
発売日:2025年4月18日
ページ数:272ページ
ISBN:978-4-8284-2722-5
価格:1,800円+税