東京港区支部
令和6(2024)年10月22日(火)
於:港区立産業振興センター「大小ホール」
学術講演会は本学大学院法務研究科教授 佐藤信行先生(副学長)を迎え、場所を恒例の「シティホテル」から新たに「港区立産業振興センター」に移し実施したので聴講者は漸減傾向で関係者40名に加え一般聴講者2名で行われた。
演題は「AIは法システムの破壊者か?」-法システムはチューリング・テストをこえられるか-で、今、急速に普及が拡大する最先端の問題として、興味を持って聴き取ろうとする聴講者で席を埋めた。
先ず、土屋準幹事長の司会で根岸清一支部長の開会の挨拶、続いて川村五作副支部長より佐藤信行先生のプロフィール等の紹介があり講演会に入った。
講演の概要は、
―「法システム」は封建時代の「封建法システム」から時代の移り変りを経て民主主義社会の法システムの基礎モデルとする「近代法システム」が制定された。更に、時代が現代社会へと進展すると共に法も現代化に改良され「現代法システム」が制定されるに至った。その新現代化領域の「科学技術と法」「情報法」の一局面としての「AI(人工知能)/ICT(情報通信技術)と法」について、講義はすすんでいった。
―AI/ICTに関する法整備は「近代法」には皆無であるが、「現代法」には新規技術の問題として、①既存の法の枠組みで対応出来るもの ②既存の法を前提とする特別対応法(パッチワーク対応)が可能なもの ③既存の法システム全体が揺らぎ、相当規模の法システム改革が必要となるもの。此の3つの対応手段(アプローチ)がある。
―「生成系AI」とはAIの中で与えられた条件に応じて、新たな文章や画像等を生成するものの総称である。
※「生成系AIシステム」とはコンピューターシステム(ネットワークサービスとしての提供分を含む)のうちデーターに基づく学習を行い、かつ、その学習結果に基づく新たな出力を行う機能を備えるものをいう。と本学も定義している(2023年6月5日学長決定)
―コンピューターシステムの中核の「データーベース」は検索条件に合致するものを提示するが、「生成系AI」はネット上に存在する情報を学習して、その結果に基づく新たな出力を行う点が異なる。「生成系AI」が今日話題急騰する原因は研究の進展により2022年より多くの実装がインターネット上で無償利用が可能(誰でも簡単に利用出来る)となったため教育現場やビジネス現場で利用をめぐり議論が活発化するに至ったからである。
―「生成系AI」は大別して、画像(静止画像)/映像(動画)/音声/文章の4領域がある。本日はこれらのうち「文章生成系AI」を例として取り上げる。
―文章を生成するAIについて
・文章生成AIのバックボーンはLLM(言語学習ルールの提供する「大規模言語モデル」)で、このLLMに基づいて、インターネット上等の文書データーを学習する。
・文章生成を求められたAIは①先ず入力された文を解析(形態系解析等の自然言語処理技術を利用)して、課題・テーマを探し出す。②次にそのテーマをキーワードとして設定し、確率的に高い後続の単語・文節・文・段落を並べるという手法で文章を生成する。以上のような、文章を生成するAIは「強いAI」(意思をもち思考するAI)までには至らない「弱いAI」であるが、チュ-リング・テスト(英国の数学者のアラン・チュ-リングが考案した人口知能判定テスト)の「意志をもち思考する人間と同じ行動ができるか」を判定したところ、現段階ではほぼチュ-リング・テストを通過できるとしている。
―「生成系AIの実力」は「知る権利」について、最高裁判所判例に照らしての生成系AIの解答は正確な解答を詳細に出力するが、反面、中には存在しない解答も出力する場合もある。
—「生成系AIは法システムの破壊者か?」
現行法では「意志を有する人」のみが法的主体とするが、コンピューター・システムは高度に発達しても「意志」を見い出すまでには至っていないので「法的主体」ではない。しかし、AIはチュ-リング・テストを通過しているので「意志を持って行動しているように見える」ため様々な問題が発生している。
―「具体的事例として」・AI生成物による著作権侵害についての問題・生成系AIによる自動運転自動車についての問題等々を検証した結果、
結論として「生成系AI」は既存の法システムの破壊者になりうるリスクを内包している。
つまり、生成AIが世界的に普及し益々利用が拡大すると同時に諸刃の剣の如く、利用価値は高いが民主主義を揺るがしかねない弊害も少なからず含有する。
よって、其の対策が現況では不透明で後手に回っている感はあるものの、科学・技術・哲学・倫理・法を組み合せた議論と、それに基づく法整備(規制・法的義務化・制度化等)が必要不可欠かつ、急務である。
2024年5月21日にEU理事会にて、その対策措置として「AI Act」(一定の規制・制度化)が成立した。日本もこの方向性を参考にして法整備を着実に進めたい。
最後に、法整備を完成させると同時に万人が信頼出来る生成系AIを開発することも肝要である。
以上、佐藤信行先生は聴講者にスクリーンを見せながら平易に熱弁されて終了。
講演会終了の挨拶は鈴木誠副支部長が行い、その直後、川窪臣知広報部長の指示で記念集合写真撮影を行った。
其の後、部屋(ホール)を移り懇親会に入った。司会は福田守弘副支部長で、支部代表の開宴の挨拶を河野信之副支部長が行った。そして、主賓の学校法人中央大学常任理事 塚原由紀夫様に祝辞と本学の近況報告を交え御挨拶を賜わった。次いで学員会本部代表挨拶を松田啓副会長に賜わり、続いて土屋準幹事長より御来賓各位17名を1人1人御紹介した後、学員会本部 榎秀郎副会長に「乾杯」の御発声・音頭をとっていただき、そのまま食事歓談へと進行した。暫く和やかに経過した後、本学名誉教授(前学長)日本私立学校振興・共済事業団理事長 福原紀彦先生に御登壇して戴き、御来賓のスピーチを賜わった。次いで、全員起立して校歌斉唱。更に国分寺白門会支部 小山浩伸支部長が登壇、母校本学及び港白門会への激励のエールを切って、会場の志気を高潮させた。その後、当支部顧問 堀合辰夫様の中締め、そして、全員で惜別の歌を斉唱、殿(しんがり)は竹内敬雄事務局長の閉宴のことばでおひらきとなった。最後はホールの出口に執行役員らが集合整列して御出席下さった皆様へ謝意を込めた礼を以って、お見送りをさせて戴き、全日程を終了した。
以上
(広報部長 川窪臣知)